仲正昌樹(第9回)

アニメとツイッターと法学と動物化する学生

 前回、前々回と、私の勤めている二流大学の“学生”の生態について述べたが、その後もしつこく「○○も仲正の被害者なの」「なかまさこわい」「なかまさどれだけ嫌われてるん」「俺は中国に逃げるつもりだった」、とか同じようなことをしつこく言い続ける奴が何匹か湧いて出た。法学類だけで、同類が数十匹いそうである。幸い、この連中もさすがにまずいと思ったのが、大半が自分のアカウントにロックをかける――連中は、それを「鍵垢」と呼んでいる――か、悪口のやりとりはLINEに移すかしたようで、このところ、あまりひどいのには出くわさなくなった。
 この間、この手のバカなツイートをしたがる連中を観察している内、何点か共通する特徴があることに気が付いた(ような気がする):①本名に近いアカウントを付け、大学・学類(学部)・学年・所属サークルを表示したがる(=自己顕示欲の中途半端な現われ)、②アニメ・キャラをアイコンにし、しばしばアニメのキャラに言及して、「萌えた!」とか「来たー!」「カッコイイ!」等と幼稚な叫びを発するが、そのアニメについてちゃんと情報交換しているわけではない(=とにかく誰かの注意を惹きたい焦りの現われ)、仲正のような語学や政治思想史のような“役に立たない科目”の先生をけなすのと対照的に、たまに、憲法とか民法などの法学先生とか法学系サークルの先輩を持ちあげる(=虎の威を借る狐の中途半端な権威主義)、そのくせ、「仲正の被害に合っている」というような法学的センスのかけらもなさそうな、不用意な発言をする(=リーガル・マインドの欠如)。
 この四つの特徴から、ツイッターにかじりついている“二流大学の動物たち”の性格を、やや強引に分析する――他人の悪口に群がる蓄群は、少々強引に“分析”してやってもかまわないだろう――と、大凡、以下のような感じになる。連中は、中途半端なプライドの高さと、とにかく誰かにかまってもらえないと不安になってしまう体質を合わせ持っている。そのため、注目されるネタを探すことになる。
 一番てっとり早いのは、BSで深夜に放送している、『進撃の巨人』のようなアニメだろう。しかし、普段から頭を使っていないので、そのアニメについて深く分析することなどできないし、ストーリーさえよく覚えていない。すぐに話題が尽きてしまって、そのアニメについて友人と落ち着いて語り合うことなどできない――そういうオタク友達でもいれば、ツイッターで脈絡のない話を延々と続けたりしないだろう。「キター!」と叫んで、同級生からRTを2~3回獲得するのが、精々であろう。それに、そういうのを言い続けると、バカだというイメージが定着してしまうことくらいは分かる。
 そこで勉強の話もしようとするのだが、受験疲れと「金沢にしか入れなかった」という劣等感で、あまり頭が働かない。(大事なことは先生がプリントを配ってくれるのが当然だと思い込む体質が身に付いているので)授業中ノートを取っていないし、居眠りに近いようなぼーっとした状態を続けているので、授業の高度な中身についてツイートすることなどとてもできない。そこで、私のようなキツイ教員を揶揄し、自分と同じ様に、勉強する気をなくしかけている連中の共感を呼ぼうとする。自分たちが、怠け者なのではなくて、仲正が異様なのだということにしようとする。私は、たくさん本を書いていて、学外に多少は知られているので、ターゲットにちょうどよいようである――普段は、「仲正なんて誰も知らない」というそぶりをしておきながら、悪口のネタとしては利用しようとする。
 私が教えている科目が、ドイツ語と政治思想史であることも、連中が悪口をいいやすい背景にあるようである。ドイツ語なんて履修するのは一年生の間だけのことであり、“運良く”、私のクラスにならずにすんだ奴にはそもそも関係ない。法学類の科目の中で政治思想史は、いらないと見なされている科目のナンバーワンなので、取る必要などないし、学類内でのその教員の発言権など、大したことないと思っている――実際、そうなのだが。だから、気楽に悪口を言う。
 ただ、仲正のようなどうでもいい教員の悪口を言い続けると、やはり、あまり勉強のできない奴というイメージが付く。そこで、六法科目とか行政法、知財法などの、何となく役に立ちそう――本人が勉強しなければ、そういう科目も結局役に立たないのだが、プライドの残骸にしがみついているアホどもはそこまで頭が回らない――な科目の先生を、意味もなく持ち上げる。「仲正の政治思想史は、全然面白くなかったが、民法の不法行為法の授業の最先端の学説を踏まえた紹介は面白かった」的なことを言いたがる。実際には、私の授業には登録しただけで、ほとんど出席しないまま、「不可」か「放棄」になっているので、内容を知りようがないし、民法の授業は、指定教科書の難しそうな見出しを見て適当に想像しているだけなのだが、同じ様なレベルの奴が多いので、その手の話がまかり通ってしまう。
 法学部のある多くの大学でそうであるように、金沢にも法学系の公認サークルがある。そういうところに、登録しておくと、一応勉強のできる奴のように見えるので、名前だけ登録している奴や、実部室でずっとだらけて、だべってばかりいるような奴が多い。やる気のない奴がだべっていると、当然、先に述べたように、仲正のような“不要科目”の教員をけなし、“偉い科目”の教員を持ち上げることによって、“親睦”を図ろうとする。そういうのに限って、ツイッターのプロフィールに所属サークルを書きたがる。法相(法律相談所)と模擬国連に、ゴミが集まっているようである。無論、これらは所属人数が比較的多いので、クズが含まれる可能性が必然的に高くなってしまうということかもしれない。“真面目な学生”の方が多そうな気もするが、ゴミたちがサークル部屋を起点として恥ずかしい話を平然と拡散し続けられるのは、他の学生の“真面目さ”がたいしたものではないからだろう、と私は推測する。
 念のために言っておくと、私は、授業で疑問を感じることがあればいつでも質問に来るように常日頃から言っているし、試験に出る問題を――試験期間に入る前に――事前に予想し、それに対する解答を自分で考えて持ってきたら、出きるだけ速やかに添削する、とまで言っている。にもかかわらず、真面目な質問に来る学生はほとんどいない。それなのに、授業に出ないまま、「政治思想史は勉強する意味はない。仲正は人格破綻者」だという噂が、「法相」と「模擬国連」を起点として拡散し続ける。結局のところ、私をけなし、重要科目の先生を持ち上げるという擬似権威主義的な態度で、中途半端なプライドを保とうとしているのだろう。
 言うまでもないことだが、アニメと擬似権威主義と誹謗中傷が結び付くのは、二流大学の法学類に限ったことではない。多くの大学や会社に、同じようなコンプレックスを抱えて、同じように愚鈍なツイートを繰り返している輩は少なからずいるはずだ。