「俺が勉強に関心を持てないのは教師のせい!」と恥ずかし気もなく言ってのけるモンスターたち


仲正昌樹[第33回]
2016年6月6日

仲正昌樹著『ラディカリズムの果てに』改訂新版準備中!

仲正昌樹著『ラディカリズムの果てに』改訂新版準備中!

 前回の連載の後半で、金沢大学での私の政治思想史の授業で出している試験を題材にして、学生が問われている問題の趣旨を十分理解できないまま、ズレた答案を書いてしまうことがしばしばある、ということを書いた。その何日か後に、2ちゃんねるの「ニュース速報(嫌儲)」板に、「文系教授の悩み『多くの学生が設問を理解できず、問われていないことを答えようとする』」というタイトルのスレッドが立った。私の文章の趣旨に理解を示してくれる好意的な書き込みも多かったが、例のごとく、「文系大学教授」に言いがかりをつけたくて仕方ない輩が何匹か湧いて出た。これらの連中の言い分のいくつかに、大学で勉強するというのはどういうことか全く分からないまま、教師を逆恨みする人間の典型的な発想が見られた。ある意味興味深い。
 私が例として出したのは、ホッブズとロックの自然状態論の本質的な違いと、その論理的な帰結を問う問題だが、悪口を言っている連中は、それに対する回答を思いつけなくて、ムカついたようである。「Id:bt6X0eYg0」という人物が数十回にわたって書き込んでいるが、この人物は、おかしな日本語で、意味不明な主張を続けている。このスレッドの263番目の書き込みで、以下のように述べている。

高校の時点では
我々は牧歌的市民であるという前提のもとでの、ロックの社会契約論に含まれた、
政府変更の重要性や、革命権をジャップランド政府や自民党内閣の意向により
詳しく学んでいない感じだから

大学で単位取るためにこの教授の講義を取っているのであれば
高校時点の内容に、この教授の内容を少し補完したもので繕うのは当然の成り行きだと思う

Wikipediaも日本語版だけでは理解に至った完全解答不可能だったことと、
高いレベルの解答能力を身につけるという教授の仕事の一つである、文字通りの教授的本質を考えると
大学生よりも、総じてジャップが悪いという結論にしかならない

私はジャップのリヴァイアサンに嫌儲革命権を持って抵抗する

 「高校の時点では~」以下の文と、「大学で単位を取るために~」以下の文は、日本語のネイティヴが書いたとは思えないくらい文法が乱れているが、言いたいことが分からないわけではない――無論、革命権を日本政府の意向で詳しく学んでいないというのは、妄想による陰謀論である。しかし、「Wikipediaも~」以下の文は、何を言いたいのかはっきり分からない。多分、wikipediaの日本語版を見て、その記述だけでは、私が例示した問題に解答できない、と思ったということなのだろうが、それがどうして「教授の本質」に反するとか、「ジャップが悪い」などということになるのか? どういう思考回路になっているのか? wikipediaの記述を基準にして、日本の大学の教授の教育方法を批判すること自体がおかしいと思わないのだろうか? 私や、他の日本の大学教員の授業のやり方について何も知らないのに、どうして批判しようなどと思うのだろうか――bt6X0eYg0の文章からして、日本語を主要言語とするまともな大学に通ったことがあるとは思えない。
 この人物は、wikipediaの記述を真に受けるのはおかしいと他の人物から指摘されてムキになったらしく、いや英語のwikipediaには引用元が表示されているので、ジャップのwikipeidaとは違うなどと、強引な屁理屈を言い募る。そもそも、この人物は日本語版wikipediaを見て、私の問題に答えられないと言い出したのだから、英語版のwikipediaの話にズラそうとすること自体がおかしい。仮にホッブズやロックについては日本語版よりも英語版の方が記述が詳しいとしても、この人物の一連の書き込みを見る限り、彼にはどちらがより信用できるか判断する能力はないだろう。引用元に直接あたって、学術的に信頼できるソースだと確認してから、参考にするのならいいが、そういう作業を怠って、wikipediaに書いてあることをそのまま信じてコピペするのであれば、何語版であろうと同じことだ――これについて詳しくは、この連載の第二十五回を参照。言い訳しきれないと思ったのか、唐突に以下のように主張する。

まぁ、はっきり言って、ハイエクからデリダ、リア充論まで手広く本を出版する御仁には
ソース云々以前の話だろうなぁという感じはするから、
このWikipedia式対抗方法で充分ではないかと思ってしまうが

半出版屋であって、
普通のAcademism人材、普通の大学教授ではない

 
 恐らく、私がいろんなテーマについて本を出しているので、調べもしないで適当なことばかり書いていると妄想したのだろうが、「おまえと一緒にするんじゃない」、としか言いようがない。多分、bt6X0eYg0は、私の本など一冊も読んだことがないのだろう。「ハイエクからデリダ、リア充論まで」というのもwikipediaで、私の著書のタイトルを見て初めて知ったのだろう。ハイエクやデリダの本で私が結構細かい論点を、先行研究を参照しながら論じていることは、全部読まないでも、パラパラとめくるだけで分かるはずである――無論、日本でちゃんとした大学教育を受けた人がめくるという前提での話である。この人物は、日本の大学教授は、自分と同じか、それ以下くらいに頭が悪いと思い込みたいがために、多様なテーマについて多くの本を出版しているのは、いい加減なことを書いている証拠だと極めて短絡的に判断したのだろうが、そういう適当な基準で判断し始めたら、西田幾多郎、和辻哲郎、丸山眞男、山口昌男、熊野純彦といった人たちも、まともな学者ではない半出版屋ということになるだろうし、ハイデガー、バルト、フーコー、ハーバマス、デリダ、ローティ、サンデルなどについても同じことが言えてしまう。情けないことに、最近では大学院生にも、これと同様の雑な推論で、多くの本を出している大学教師を誹謗するバカが少なくないようである――これについては、この連載の第七回参照。
 百歩譲って、私がwikipedia以下の基本知識で本を量産しているにしても、bt6X0eYg0や彼と同趣旨の悪口を言っている2ちゃんねらー連中には到底真似できないだろう。出版社に、本になるくらいの分量の原稿を持ち込んで、「これこそ今の時流に合った本です」、とアピールして、編集者の反応を見れば、すぐ分かる。bt6X0eYg0は、内容以前に、「日本語を勉強し直した方がいいですよ」、と言われるのがせいぜいである。。
 また、ホッブズやロックを出題するのは、日本の文系のレベルが低い証拠だという屁理屈を言う奴もいる。「ID:9jOB7f1a0」いわく、

ホッブスとかロックとか高校生の公民かよ

これに同調した「ID:7nZ6PmSd0」によると、

だから文系なんていらないんだよ
理系だけの方が日本のためになる

 この二人は文系/理系以前に、大学に通ったことがないのだろう。大学における基礎的な勉強は、中高で大ざっぱに教わったことを、正確に理解し直すことから始まる。高校の数学だと、微積分を定義したり、無限等比級数の収束を説明したりするのに、「xがゼロに限りなく近づけば、~」とか「nが無限大に大きくなれば、~」というような雑なイメージですませるが、大学の数学だと、イプシロン・デルタ論法で厳密に定義し直す。物理や化学でも、電磁気や気体の運動などについて大ざっぱなイメージで習ったことを、より厳密な数式や論証によって再学習する。ホッブズやロック、ルソーについても、高校で大ざっぱに習ったことを、原書での表現や比較的初歩的な学説に従って再学習する。「ID:9jOB7f1a0」や「ID:7nZ6PmSd0」は、恐らく、大学で学ぶ知識も高校でのそれと同様に、クイズのように、「社会契約論という言葉を最初に使ったのは○○である」というような穴埋め問題の答えを覚えるものだと思い込んでいるのだろう。そういう風に考えているのだとしたら、大学では、ホッブズやロックのように高校で習った名前ではなくて、目新しい名前を出すべきだという見当はずれな主張をしていることに納得がいく――これについては、この連載の第二十八回及び二十九回参照。
 更に、学生がまともな答案が書けないのは全て教師のせいだと言い張る、とんでもないモンスターたちもいる。「ID:VzuTJTHS0」いわく、

元ネタの文章の主題は文章力で
この人の定義する文章力とは「自分が伝えたいこと、伝えたい相手を特定して、それを最も効果的に伝える手段を見出す能力」らしいけど
この人は自分の作った文章である問題文が学生に伝わらないのを学生のせいにしてるとこが面白いわな

哲学教授っぽいから何かそういう自虐なのかな

 この人間は自分が気のきいたことを言っているとでも思っているのだろうか? これと同じようなことを書きこんでいる人間が他にも二、三人いた。授業に出て、居眠りせずに、ちゃんとノートを取り、参考書をもとに予習復習し、答案を書く練習をしなければ、試験で何が問われているかちゃんと把握できるはずがない。普段、勉強せず、参考書に書いていることをうろ覚えに羅列しているだけなのに、ちゃんと答案を書けたつもりになっている学生を問題にしているのである。自分が不勉強だったせいでいい点を取れなかった、落第した、と潔く認める学生であれば、私は特に問題視しない。大学での試験に限らず、試験というものは、ある程度自習しておかないと、何を問われているのかさえ分からないものである。三角関数がそもそもどういうものかよく分かっていない高校生が、「三角関数の加法定理を証明せよ」という問題を見せられたら、全く意味不明であろう。
 「ID:0l5x7tnb0」曰く、

まるで学生が一方的に悪いと言いたげだが
設問者の意図した通りの模範解答で答えろ!
私のイメージ通りに回答しないのはおかしい!
なんて言ってる方がちゃんちゃらおかしいわw

 この人間は、ちゃんちゃらおかしいのは、自分の知的水準だということが分かっていないようである。私がいつ、「設問者の意図した通りの模範解答で答えろ!」、と言ったのか? こいつの勝手な想像である。肝心なポイントが入っていて、全体の文意が通じれば、満点に近い点数を与えるようにしている。大学の期末試験は、授業でやったことをちゃんと理解しているか確認するために行うものである。ある程度その教師の解釈を反映した設問になるのは避けられない。ただ、私が先の連載で示した例について言えば、大学レベルの政治思想史の授業を真面目に受けた人にとっては、ほぼ定番の答えがある。政治思想史をちゃんと教えている大学教員であれば、ほぼ同じような模範解答を書くだろう。「ロールズの無知のヴェールと正義の二原理の関係について述べよ」という問題は、ロールズを知らない人間には意味不明だろうが、一度ちゃんとした勉強した人間にとっては、どれくらいの字数設定であれば、どの程度のことを書くべきかおおよそ見当がつくベタな問題である。
 0l5x7tnb0やVzuTJTHS0は、私の問題設定が悪いせいで、誰も合格しないかのように言っているが、いつ私がそんなことを言ったのか? 私は期末試験では、先のホッブズ-ロック問題のようなものを四問出題し、その合計で六〇点を超えたものを合格としている――六〇点で合格点とするのが、金沢大学の標準である。例年、三十~五十名くらいが期末試験を受けているが、数人にはS(九〇点以上)を与えている。不合格は四分の一から三分の一くらいである。2ちゃんねるの嫌儲板で他人の悪口を言っている連中は、ネット検索技術が低いせいで突き止められなかったのだろうが、私の政治思想史の過去問と模範解答、合格者数などは公開されている。
 あと、「ID:oTWvo6IA0」なる人物が、

学生の答案のほうが分かりやすい。
この人の方が何を言ってるんだかよく分からない。

と書き込んでいるが、こいつは真正のバカなのだろう。こいつが「学生の答案」と言っているのは、「一見よく書けているように見えて、ポイントからずれているので、あまり高い評価を与えられない答案」の例として、私が書いたものである。本当の学生の答案をそのまま例に出すはずがないし、ズレた答案を忠実に再現したら、文意が通じなくなるので、かなりアレンジしてある。つまり、高校レベルの知識ですませればよいと思っている連中なら、どこが悪いのかよく分からないような文章にしておいたのである。別に誰かをひっかけるつもりはなかったが、oTWvo6IA0は自分からひっかかってくれた。いいサンプルになってくれたので、ある意味ありがたい。
 モンスターの極めつけが、「ID:3l38O5jk0」の以下の言い分である。

>>75
いや?
絶対にこいつ口頭で対立点言っただけでレジュメには両者の特徴とかしか書いてないだろ
ピンポイントでどんな問題が出るかなんて教えるわけがないし、学生はどこから出るかなんて分からないんだからどうしても薄く広く覚えるしかない
レジュメに重要とか書いて対立点を書いてあったらそれを覚えるでしょ?
こいつは学生の立場になれない馬鹿

 こいつは自分の言っていることが分かっているのだろうか? これは、試験の問題を予め教えて、暗記しやすいようにしろ、と言っているに等しい。学生は何も考えないで、「▽▽は□□理論を定式化した」式の文を暗記だけすればいいよう、そういう文を書いたレジュメを配るのが教師の義務だとでも思っているのだろうか。それだと本当に、暗記科目化している中高の社会科レベルである――中高の先生でも、本当の理解度を測るためにちゃんとした文章題を出している人はいると思う。学生の出来があまりにも悪いので、穴埋め式問題ばかり出している大学の先生もいるが、まともな大学の教師なら、それが正常な教育だとは思わないだろう。ホッブズ-ロックの対立点については、私は基本的に口頭で説明するだけで十分と考えているが、一応、レジュメで図示している――不真面目な学生はそれを読もうとしない。また、どういうところから出題しやすいか、十数から二十くらいのパターンを口頭で繰り返し示しているし、予想問題を作って自分で答えたものを私に送ってくれれば、できる限り速やかに添削するとも言ってある。
 教師に対する恨みや妬みで気が狂いそうになっている3l38O5jk0やbt6X0eYg0等は、何が何でも、全て私が悪いことにしないと気がすまないのだろう。こういう恥知らずなモンスターたちがこのまま増殖し続けたら、日本のほとんどの大学でまともな授業を行うのは不可能になる。


kanren