【6/30極北ラジオ・ダイジェスト】竹村洋介の夜をぶっ飛ばせ(第2回)


竹村洋介
2017年7月3日

極北ラジオダイジェスト

学校の自由化に群がる馳・下村・丹羽
 今回は、下村博文元文部科学大臣が加計学園からの政治資金援助を受けているのではないかという疑惑をめぐって、教育の民営化とはいったい何なのかを考えてみるというテーマで話してみました。
 冒頭から、放送している音声がハウリングを起こしてしまい、放送している方ではまるでエコーでも流しているのかのようになってしまったことをお詫びします。デジタルだと再生までにわずかではありますがタイムラグが生じるので、マイク集音時とスピーカーでの再生時に時間差が出来てしまうために起きてしまった現象です。謹んでお詫びするとおもに、次回からはこのようなことがないように、セッティングに充分注意を払っていきたいと思います。
 さて本題に入ります。「特区による自由化」と安倍内閣はいいますが、果たして「民営」化は本当によいことなのだろうかというのが今回のテーマでした。少し古く振り返ってみましょう。中曽根内閣は1984~1987年に臨時教育審議会というのを開きました。土光敏夫の第二臨調の直後のことです。この第二臨調がやったことは国営企業の「民営」化でした。
 国鉄、電電公社、専売公社の三公社の民営化です。たしかに、この三公社は株式会社化されました。「民営」化=privatizationという意味では、官業でなくなったことは間違いありません。しかし、ここでいう「民」とはなんでしょうか?JR、NTT、日本たばこという寡占(独占)企業を生み出しただけではないでしょうか?「自由」化されることで、以前は許されていなかった領域への業務の拡大したのではないでしょうか?NTTの株式上場に株式相場は踊りましたが結局のところ、マーケットを支配する巨大寡占企業の設立だったのではないでしょうか?特別なパイプを持つ人への巨大な「官営」企業の「払下げ」とは違いませんか?さらには、事実上寡占状態の企業は電力、ガス、水道のほかにNHK等々が付け加えられることでしょう。
 民営化によるコストパーフォーマンスの上昇を主張する見解もありましょう。しかし、いつでもすぐにカルテルを簡単に結べるような民営化が長期的にほんとうにそれに当てはまると言い切れるでしょうか?
 郵政民営化をなした小泉内閣は、構造改革「特区」でしたが、第二次安倍内閣は国際戦略「特区」です。「特区」にもいろいろありますが、ここでは加計学園グループのことですので教育「特区」に焦点を当ててみます。加計学園はすでに保育園・幼稚園から大学までさまざまな学校に加え、特別養護老人ホーム、医療法人、社会福祉法人などからなる幅広いグループをなしています。今回はさらに獣医という今までは許されていなかった領域に業務拡大するということです。
 ここでひとたびフリースクール議員連盟に眼差しを向けてみましょう。この議員連盟は2015年に馳浩を座長として発足し、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育機会確保法」の議員立法を目指しました。2015年10月に馳浩が文部科学大臣になると、次には前文部科学省副大臣の丹羽秀樹が座長の席に着くことになりました。馳浩の文部科学相としての前任者が下村博文です。馳浩のレスリング界での活躍は多くの人の知るところでしょうから、ここではあまり深く掘り下げませんが、下村博文氏の経歴を少し詳しく見てみるとしましょう。
 下村氏は1954年生まれ。1978年に早稲田大学の教育学部を卒業されております。そして卒業後は「塾」を経営され、1984年には『「塾」そのありのままの姿』(学陽書房)という本を上梓されています。ちょうど、臨時教育審議会が始まったのと軌を一にするというのは穿った見方でしょうか?1989年に自民党の都議に、1996年からは同じく自民党から衆議院議員に当選しています。2016年からは自民党の東京都支部連合会会長をもつとめておられます、
 もう一人の丹羽秀樹さんですが、ガンダム計画で有名な方ですが、第二次・三次安倍内閣で文部科学省副大臣を歴任されています。
 こういった方々が自民党の文教族を形成し、文部科学省のネオ・リベラル化を推進しているのです。
 では、「払下げ」する組織を持たない文部科学省は何を売りに出すのでしょうか?文部科学省は郵政省(当時)のように払下げする物は持っていません(学校が公設民営になれば別ですが)。しかし、利権として「学校」設置の許認可とぃう物ではない巨大な利権を持っています。前平喜平前事務次官が詰め腹を切らされた文科省官僚の天下り先となった学校の許認可です。
 じつは、この許認可権は「学校」に限りません。「義務教育の段階における普通教育に相当する教育機会確保法」により全国のフリースクール界を分断が図られています。つまりは同法により公認「フリースクール」と非公認「フリースクール」の分断です。フリースクールはおしなべて経済的に楽ではありません。文科省や教育委員会からの支援は充分ではありません。そこで、お涙程度の助成をしようというのが、この「義務教育の段階における普通教育に相当する教育機会確保法」です。助成を受けられる「フリースクール」と受けられない「フリースクール」への分断が主目的です。そのほかに、株式会社立の「フリースクール」なども、未開拓の市場として参入していくことでしょう。
 下地作りは着々と進んでいます。2014年9月には安倍首相がフリースクール界最大の「東京シューレ」を訪問し、翌2014年10月には川崎の「フリースペースえん」を下村文部科学省が視察しました。
 実は、不登校の問題は、たとえフリースクールを全部認可したとしても、ほとんど解決しないのです。なぜなら、全国に12万人いると言われる不登校の子どもたちのうち、フリースクールに通っている子どもはたった4000人強なのです。97%の子どもたちは取り残されるのです。
 その一方では森友学園の「瑞穂の國記念小學院」や加計学園の獣医学部が認可されようとしたのです。自民党文教族が助太刀となって自由化にともなう(物であるかないかにかかわらず)「利権」に群がっているという構造が見て取れないでしょうか?教育「内容」にかかわらずというか、実はバックラッシュを推し進める形で、「学校」は自由化されようとしているのです。安倍首相、下村元文部科学省が加計学園獣医学部設立により大きな恩恵を受けたと推測しても邪推ではないでしょう。たとえそれに当事者が直接にかかわることのない「忖度」であったとしてもです。
 安倍首相が薦める「特区」構想で恩恵を受けるのはフリースクールだけではありません。かつてサポート校として発足した「学校」が、「特区」に本校を設置する広域通信制の学校として数多く設立されています。たとえば、志摩・賢島に本校をおく代々木高等学校は、名称通り代々木にある代々木高等学院が母体となって設立されたものです。玉石混交、さまざまな「学校」が、なかには問題を起こしたウイッツ青山学園高等学校、師友塾高等学校などもありますが、あります。もちろん、一概に他業界からの参入を否定するものではありません。そもそも「特区」以前から広域通信制の学校として東海大学付属望星高等学校(東海大学の付属校)、駿台甲府学園(駿台予備校の系列校)などもあります。しかし、「特区」制度によって参入が容易になったことは事実でしょう。またそれが「特区」の狙いでもあるわけです。
 「特区」を利用したものには大学もあります。成田にある国際医療福祉大学もあります。一県一医学部(医科大学)構想の実現した1979年以降では初めての医学部医学科の設置です。
 学校法人でなければ、学校を設置してはならない、他業種からの参入を認めないと主張するものではありません。学校法人であっても、それこそ森友学園のように問題を起こすところもあります。公立だからよい、株式会社だからよくないとも考えません。しかし、どういう学校がどういう条件を満たし設立されるのか、それは設置者の法人格という問題ではなく、オープンにして明らかにしていく必要は最低限あるのではないでしょうか?
 それこそ、固い岩盤に穴をあけたことで、流れ出す甘い汁が、不明瞭なところで一部の文教族によって水路付けされ、一部の利権者にのみ流れていくようなことがあってはならないでしょう。


【パーソナリティープロフィール】
竹村洋介(たけむら・ようすけ)
社会学者、ROCK Writer、医療系ジャーナリスト、サブカルチャー&カウンターカルチャー・クリティーク。1958年、大阪市出身。東京大学社会学科卒業。中高校生時代より、ジャックス、村八分と裸のラリーズをこよなく愛する。N.Y.Punkの熱烈な支持者。1990年、不登校を精神病として”治療”することが誤りであると、本邦初(おそらく世界で初)めて、社会統計学的に実証する。その後、Neet、引きこもり等々の(社会)「病理」化の誤りを指摘する著書等を発表。フリースクールの理事長などをつとめる。単著 『近代化のねじれと日本社会』(批評社)。共著『福祉と人間の考え方』(ナカニシヤ出版)、『引きこもり』(批評社)、『学校の崩壊』 (批評社)、『発達障害という記号』(批評社)、『水俣50年』(作品社)など。


第3回はプレミアムフライデー7月28日の深夜24:00から!


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