『21世紀の対華二十一ヶ条要求』その１～５ 【我に還らず第２回】
居島一平［第２回］
2012年10月28日
一発（18）急所（94）にドカーンと、なんて物騒な覚え方を受験でしたのは日清戦争開戦の1894年、明治でいえば27年。
このとき日本が勝った清帝国→当時の中国は周知のごとく満洲民族の王朝であって、戦前〝狭い日本にゃ住み飽きた、支那にゃ四億の民が待つ〟（古い！）と歌われたその数だけの漢民族の上に、僅々百万に満たない満洲＝女真族が約300年間も君臨支配していたわけだ。
彼らは現在東北部にあたる土地から鼻息荒く南下してきた、完全に遊牧系の異民族であって、漢民族とは無論親戚でも何でもない。支那の漢族は極端にいやぁ植民地、元の時代にモンゴル民族の支配下におかれたのとほぼ一緒。
バドガールならほとんど誰でも、体の線を強調するピチピチ衣装のおかげで何割増しかセクシーに見えるのと個人的には同じ原理で、鋭くスリットの入ったチャイナドレスを着られるとこちとら弱いもの。
だが女のふとももがなまめかしくも露わになるあの服が、「チャイナ」と呼ばれつつ実はもともと満洲民族の風俗文化であることは余り一般的に浸透していないようだ。
ほかに手っ取り早いイメージでいうと、もはや昭和人気マンガ史上で殿堂入りの「キン肉マン」、あの中に登場する屈指の名脇役ラーメンマンの弁髪スタイルも満洲民族の風習であり、漢民族固有のものでは決してない。
われらのご先祖がちょんまげ結っていたのとは全く事情が異なって、征服者である満洲人に漢人が強制的に押し付けられたものが、あのアタマの形にほかならない……、ってくどくど何が結局言いたいのかといえば要するに、中国にとって「満洲」とはそもそも昔っから支那とは「別物」だったということに尽きる。
てな訳で21世紀の対華二十一ヶ条要求（前置き長くてすまんの©横山たかし・ひろし）
ようやくその①「満洲を有史以来からの自国の領土ヅラするな」
諸賢のもはやお察しの通り、余りいい例えではなくともいってみればカナダやオーストラリア、あるいはインドないしパキスタンが英国本土、グレートブリテン島の領有権を主張（！）するようなもので、よくよく辿れば「人の庭」のはずなのだ。
尖閣でガタガタぬかすなら第二満洲帝国作っちまうぞ……おっとこれは中上健次の未完小説「異族」の発想ですがね。
その②「チベットを全面的に解放してその国家と民族の主権を回復すべし」
これは北京オリンピックの時に国際世論的にも盛り上がりかけて、日本国内ではあえなく失速してしまったのがつくづく惜しまれる。
マーティン・スコセッシ監督の映画「クンドゥン」（1997年公開。題名はチベット語で〝法王猊下〟の意味）を見れば、歴史も文化も宗教も整然と秩序の保たれたひとつの国を、第二次大戦後のどさくさまぎれに、いかに冷酷に中国が踏みにじったかが一目瞭然（ちなみにこの作品には当然ながら毛沢東も登場するが、演じている俳優が孫正義そっくりなのが笑える）。
その弾圧は半世紀以上に及ぼうとしている現在、他国をヒステリックに侵略者呼ばわりする前に、胸に手を当て手前の足元を見よ。このままじゃダライ・ラマがつらいまま（最低のダジャレで失礼。職業病です）。
その③「とにかくいい加減にあらゆる面でのパクリをやめよ」
欧米のブランド品から電化製品、ディズニーランドや日本アニメのキャラクターから岡本真夜の音楽までをまるパクリ、というよりほとんど集団窃盗に等しき所業の数々。あげくの果てにオーストリアのハルシュタットだかどこだか、世界遺産に指定された都市を街並ごとそっくりそのまま建設する臆面のなさ（おまけにそこに“富裕層”とやらが嬉々として住むという、ほとほと図体のでかい田舎者という感じ）。
こういうとすぐ日本だって江戸時代までは中国の、明治以降は西欧の模倣をしてきたではないかとしたりげに指摘する御仁がいるが論外。日本と違ってかの国の辞書に“咀嚼吟味”とか“自家薬籠中”という語彙は存在しないようで、
そこには多少なりとも、小さじ三杯程度の創意工夫が加えられることすらなく、模倣というのも笑止なレベル。やってることはエノケンの偽物のエノケソ、美空ひはりあるいはそれ以下みたいなもんで、それがはっきり対外政策にも如実に出ている。すなわち今更相当遅ればせに、19世紀型な帝国主義諸国のやりかたを猿真似して砲艦外交じみた恫喝を東南アジア海域周辺に繰り返す、その姿の浅ましさよ。
その④「そのくせやたら商標権で騒ぐんじゃない」
iＰadを産んだアップル社を、こちらが商標登録が先だと声高に訴えて度重なる裁判沙汰。恥ずかしくないのかね？ だいたいそんなに自信があるのなら
その⑤「事故で滑落した中国版新幹線を土に埋めるな」
まだ秦の始皇帝時代の感覚なのか。兵馬俑じゃないんだから。犠牲者は副葬品か！ 隠蔽工作にしたっていくらなんでもアバウト過ぎるだろうに。
と、まあ息継ぎもせず鈴木大地のバサロ泳法のごとく思いつくまま列挙してたら字数の限度が参りました。それにしても残り16条項で足りるかしら……。
（了）
『思わず聞いてしまいました!!』スコラマガジン
