編集部便り
どうでもいいことですが……。(3)

『家庭血圧管理ノート』

『家庭血圧管理ノート』

 二カ月も前のことである。某日午前2時前後だったと思う。トイレに起きた時、視界がグルグルまわっているような気がした。原因不明の目眩に襲われていることに気付いたのであった。その後、朝までに何回か目が覚めたが、その度に目眩もヒドくなる感じである。かなりキツイ状態だった。
 それでもラッキーの散歩は欠かす事が出来ない。頑張って何時も通り朝6時半に起き出し、フラフラしながら出かけたのであった。散歩はラッキーのウンコタイムでもある。ウンコが済まないと戻る事ができない。従って1時間以上になることも珍しくないのだが、この日はウンよく20分くらいですましてくれたので、即、散歩を切り上げ、会社に戻る事が出来たのは不幸中の幸いだった。
 しかし、無理な散歩が祟ったのか、症状は益々宜しくない。立っているのも難しい状態なので、愛用しているベッド代わりのベニヤ板の上で横になり、暫く安静を決め込み、じっとしていたら激しい嘔吐に襲われた。容易ならざる気配である。それでも、狭い部屋故、洗面器も手の届く所にあったお陰で、周りを汚さずに済んだのは、こちらも不幸中の幸いだったと言うべきか。

 とにかく前例のない症状である。(熱はなかったのだが)一応、風邪を疑い、とりあえず、ベンザエースをのんでみることにした。しかし、数時間そうやって静かにしていても一向に快方に向かう兆しが見えない。わざわざ購入したベンザエースの効能を全然実感できないのであった。結局、当日の予定を総てキャンセルすべく、何人かに事情説明の電話を入れて、一日中横になる覚悟を固めることにした。

 (熱はないと言っているにも関わらず)同フロアのメンバーは「エボラ出血熱かもよ」などと警戒し近づかないし、近寄るのは散歩をせがむラッキーのみと言う状態である。実に人情の冷たさ宇宙の如しを身に沁みて体験したのであった。
 夕方のラッキーの散歩は厳しそうなので(翌朝の散歩を含め)、近くのアパートに生活保護で暮らす暇人に電話してきて貰う事にした。彼が生活保護申請をするとき若干お手伝いしたのだが、その時の善行が報われた感じである。

 深夜になっても症状は相変わらずだ。終電も近づき同フロアのメンバーもみんな帰宅し、いるのはラッキーのみとなった。静かである。明日以降のこと、病状のことなど、お粥をすすりながらアレコレ考えていていると、ふと思いつくところがあった。
 
 もはや風邪でない事は明らかである。熱は何回計っても普通なのだ、当然、高熱の自覚症状もない。それならばと血圧を測って見る事をふと思い着いたのだった。計ってみてビックリである。161-91もあった。
 普段、私の血圧は高い方が100前後で推移しており、120に上がる事すら滅多にないのである。不調を感じて既に丸一日近く、(風邪を疑っても)血圧に思いを致さなかった所以である。それにこれほど急激に血圧が上がるような原因が思いつかないのであった。

 天はニモツを与えず、私はアタマの悪い分、自分は頑健な肉体と鈍感な神経を天から授けて頂いたと、ずっと思い続けて来た。かかる認識のもと、身の程をわきまえ、それに見合った処世を日々心がけてきたつもりであったが、高血圧は、そんな自分の存立基盤を根底から揺るがしかねない大事である、正直、危機感を感じざるを得なかった。

 しかし、その後、午前3時半には150-95、8時(143-93)、9時15分(118-76)、12時05分(129-80、1)、15時30分(117-77)、と当日は落ち着いて来て、以後、二ヵ月が経過した現在も朝晩毎日計っているが、110前後、70前後を推移し、完全に回復基調できているのである。今となってはいったいあれは何だったのだろうと思わざるを得ないほどなのだ。

 回復して数日後、ラッキーの散歩が縁でお知り合いになり、以後、散歩の途中でお逢いするたびに軽い四方山話など、立ち話をするまでの仲になっている東京女子医大病院の先生に上記の顛末をお話ししたら、神経内科の診察を受けた方がいい旨、アドバイスして下さった。
 そして翌日会社の入口に、「血圧の記録にお使い下さい」とメモをクリップで添付して、さりげなく『家庭血圧管理ノート』を置いて行ってくださったのである。(図版1)

 実は、これこそ、この「目眩騒動」の唯一の救いであった。せっかく頂いた『家庭血圧管理ノート』ではあるが、使用するのがあまりにももったいので、むしろ「宝物」として、大切に保管させて頂くことにした。

 追伸
 お医者さんの紹介で女子大で診察を受けた。MRI+MRAとか言う(確かそうだった)アタマの血管検査(だったと思う)をしてもらったのだ。結果はまったく問題無し、驚くほど奇麗なのだそうだ。しかし、あの突然の目眩や血圧上昇の原因は不明のままである。
 体調を崩すと心まで弱ってしまうのか、つい人情の冷たさを嘆いてみたが、それでも今回、病気? をききつけ何人かから安否を問うメールを頂いた。『家庭血圧管理ノート』の事もあるし、人間それほど悲観ばかりしていなくてもいいのかもしれない。
 心配してくださった方にはこの場を借りて謝意を表する次第。
 ご心配をおかけしました。お気遣いありがとうございました。