編集部便り
どうでもいいことですが……。(2)

今月のラッキー

今月のラッキー

 11月12日、夕方。ラッキーの散歩を兼ねて神保町の知り合いの会社に出向いたときの事である。
 用件も一段落して、たまたま、そこに居合わせた他の来客も交えて、何人かでお酒まじりの歓談をしていると、作業机の下の床から何やら焦げ臭い匂いとともに軽く白い煙が立ちのぼってくるではないか。

 作業机はまた酒席のテーブルをも兼ねていたから一同一致して足許を覗き込むような恰好になった。
 机の下の床に配線のハブのようなアナがあって、その蓋の隙間から匂いも煙も出ていたのだけれども、突然のこと故、配線のショートとは気付かず、タバコの火を落として、それが何かに引火したのかなと思ったO氏が、その蓋を強く踏みつけると、今度はパチパチという音とともに青白い火花が散ったのである。(図版1)

(図版1) 床のアナ

(図版1) 床のアナ

 ん? これは一大事、ということで、直ぐにブレーカーを落とし、119番に電話することになった。
 電話と言っても、既述内容以上に事態が悪化する気配もないので、こちらの感覚としては、あくまでもこれは事後報告であり、漏電のことなど我々素人は解らないし、原因もはっきりせず、放置しておくのも今後不安だから、暇な時間に諸々の事、調べにきて頂けませんか、といったニュアンスの電話内容であった筈である(私が電話した)。
 電話の受け手も、緊急ですか、と念を押すので、そうではない旨、こちらも強く念を押して、また酒の歓談に戻ったのである。その程度の話のはずだった。

 10分くらい経過した頃だろうか、既に119番した事などすっかり忘れて、皆、酒の歓談に花を咲かせていたら、最初は遠雷めいた緊急車両の音が段々大きくケタタマシく聞こえて来る、それも複数である。何となく緊急車両のサイレンに包囲されかかっているような雰囲気になってきた。

 あれ、このサイレンの音、ひょっとしたらさっきの電話の件かな? 
 まさか! 
 いや、ここだよ、ここにくるんだよ! 
 え?
 酒なんか呑んでいたらまずいんじゃないか? 
 だいじょうぶ、大丈夫。
 
 そんな会話をしているうちにも、サイレンの音は明らかに我々のいる事務所に収斂されてくるし、もはや疑いがないまでに一点に絞られ、事務所の入るビルの前でピタッとやんだのである。道路をはさんだ向かいにあるS大学のビルの窓際に学生が集まって通りを見下ろしているのがこちらからもみえた。

 大袈裟にしやがって、困ったもんだ、

 などとこぼしているところに、完全武装の消防士、それに警察官がドカドカと事務所に入ってきた。
 総勢20名弱と言ったところ。弛緩しきった我々と緊張感漲る彼らとのコントラストが辛かった(どこから聞きつけたのか、まだ事情聴取も済んでない段階で朝日新聞から取材の電話があった)。消防署、神田警察、それに近くの交番のおまわりさん、更に暫くして東電の技術者(多分)みたいな人まで二人駆けつけ、その度に事情説明を求められたけれども、その熱心さには実に心強いものを感じたことを告白しておく。(図版2)

(図版2) 消防と警察

(図版2) 消防と警察

 小さな事もおろそかにしない、こういう職業意識の高いプロフェッショナルの目立たない日々の努力によって都民の治安と、そして快適な日常生活が保たれているのであることを、今更ながら思い知らされたのであった(はっは)。

 これを機会にビルの配電関係を徹底的に調べ上げるような気配であったが、この程度の事故で、入居者に119番され、それによって、お上に、日頃のビルの保安管理責任を問われかねない結果になったオーナーはひょっとしたら我々に腹を立てているのではないだろうか。
 4年半ほど前の事、数ヶ月間、このビルを住居にしていたラッキーを(密告を受けて)追放したバチがこんなところで当たったのかもしれない。当日の捜査をジッと見守るラッキーの心中はいかばかりであっただろうか。写真を貼付するのでご覧になって頂きたい。(図版3)

(図版3) ジッと捜査を見守るラッキー

(図版3) ジッと捜査を見守るラッキー