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日本国憲法・第九条にノーベル賞を 上山春平著『憲法第九条―大東亜戦争の遺産』(明月堂書店)が参考になる(5) たけもとのぶひろ【第27回】– 月刊極北

たけもとのぶひろ(第27回)– 月刊極北

今月のラッキー

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日本国憲法・第九条にノーベル賞を 上山春平著『憲法第九条―大東亜戦争の遺産』(明月堂書店)が参考になる(5)

 前回に続けて、あらためて別の側面から、憲法9条の国際性・歴史性ということをみておきたいと思います。別の側面というのは分けて言うと、ひとつは、連合国united nations 側が戦争を終わらせるというばあい、どのような条件を考えていたのだろうか、という点です。いまひとつは、彼ら連合国諸国が戦後世界というものをイメージするばあい、どのような構想をもっていたのだろうか、という点です。

 これらのテーマについて主要国メンバーの面々は、すでに戦端を開くその時から、何度も会議を開いて寄りより協議し、協定やら宣言やら憲章やらのかたちで「国際的文書」を作製し、よってもって戦後世界の構築に着手していたのでした。
 「憲法9条および前文」は、そうした彼らの政治活動の流れが生み出さずにはおかなかった、その当然の帰結だったのではないでしょうか。あるいは、連合国の戦争政治にとって終始一貫 “導きの星” であった、彼らにとっての当為ないし信仰箇条が、もしかして「憲法9条および前文」の形をとったのかもしれない――そういう見方もアリではないでしょうか。

 先生は憲法の成り立つプロセスに着目して、次のように論じておられます。
 「私は、あの憲法が、大西洋憲章→連合国宣言→国連憲章→ポツダム宣言→連合国対日管理政策、という一連の国際的協定を前提とし、しかも、日本の議会の決議と連合国の日本管理機構の承認とをへて作製された<国際的文書>である、という点に着目したい」「(それは)複数の主権国家の協力によって作られた国際契約なのです」と。

 ここに示されている一連の「→」は、「彼らの政治活動の流れ」を示しています。それを前提として作製された「国際的文書」あるいは「国際契約」が日本国憲法なのだと、上山先生は述べておられます。これらのなかで最重要の文書は、戦争開始時の「大西洋憲章」と日本の敗戦を決定づけた「対日降伏勧告文書」(いわゆる「ポツダム宣言」)です。ふたつの文書のなかで当面の問題に関わる部分のみを以下に引用します。

 まずは、「大西洋憲章」基本原則第8条のなかの前半部分です(念のために。「憲章」は、米国大統領F・ルーズベルトと英国首相チャーチルのあいだで、1941年8月14日に締結されたものとされています)。
 「世界のあらゆる国民は武力行使を放棄せねばならない。広範囲にわたる恒久的な安全機構が確立されるまでのあいだは、好戦国の軍備撤廃が肝要である。」

 次は、「対日降伏勧告文書」第6項のなかの前半部分です(なお、この降伏勧告は米国・英国・中国の政府首脳が協議のうえ発表したものです)。
 「吾々は無責任な軍国主義がこの世界から追放されてしまうまでは、平和と安全と正義の新秩序の出現は不可能であることを強調する。」

 二つの国際的文書における「武力行使の放棄」および「軍国主義の追放」の文言は、「パリ不戦条約」第1条の「戦争放棄」の思想を継承しつつ、日本国「憲法9条」として実を結んだと言えましょう。しかし、この「不戦=国際平和」を担保するはずの「広範囲にわたる恒久的な安全機構」および「平和と安全と正義の新秩序」の方は、あるべき「国際政治機構」の理念を示唆してはいるものの、それの具体的実現であるはずの「国連」はその理念に遠く及びません。ために、「憲法前文」が宣言したわが主権の移譲先は、理念と現実の乖離のなかで宙吊りにされている――そういうことではないでしょうか。

 このように構造的欠陥を有しているとはいえ、「憲法9条および前文」の世界史における先進的意義はいささかも損なわれることはない――それが上山先生の憲法観です。半世紀前の対談で、先生は次のように語っておられます。
 「あの憲法には平和にたいする人類の熱望が反映されているように思います。憲法制定議会は、憲法を自分の力で最終的に決定する権限はあたえられていなかった。対日戦に参加した連合諸国の代表からなる日本管理機構の承認を得なければならなかった。したがって、あの憲法は、一種の国際契約だと思います。こうした憲法というものは、かつてなかったのではないでしょうか。そういった意味で、これはまったく新しい形態の憲法だと思います。これは、単独の国家主権の発動によって成立したものではありません。複数の主権国家の協力によってつくられた国際契約なのです。」

 上山先生のこの文章は、鷹巣さんたちが主導する ”憲法9条に ノーベル平和賞を!“ 運動に賛同し激励してくれている、力強い味方の推薦文というふうに受けとめることができるのではないでしょうか。