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見出しと写真だけで他人を分かったつもりになる“コロナ論客”たち 仲正昌樹【第68回】 – 月刊極北

見出しと写真だけで他人を分かったつもりになる“コロナ論客”たち


仲正昌樹[第68回]
2020年4月11日
[1]




 四月二日付の朝日新聞のオピニオン面に、「疫病と権力の仲 [2]」と題した、私へのインタビュー記事が掲載された。タイトルから想像できるように、コロナをめぐる諸問題について思想史的に語ったものである。その時点では、比較的冷静な反応が多かった。しかし、三日後、朝日新聞デジタル版のプレスリリースに、(ごく短い付け足しがあるだけで、ほぼ)同じ記事が「緊急事態宣言の強権、首相自身も無自覚 決断は首かけて [3]」というタイトルで掲載されると、タイトルにつられて、ネットウヨクたちが本文を読まないまま、言いがかりのツイートを始めた。
 脊髄反射した最初の“論客”は、「ピクテ投信投資顧問シニア・フェロー」という偉そうな肩書の市川眞一という男である。市川曰く、

仲正先生、平和安全法制と異なり、今は人命が関わる緊急事態の上、特措法は2012年4月27日、民主党政権下で成立した法律です。立憲民主が賛成して当然でしょう。さらに、特措法で「首相は強大な権力」など行使できません。焦点の医療用地の使用も知事の権限です。学者なら法律をしっかり読んで下さい。

 この発言から、この男が相当低レベルであることが分かる。まず、この男は当該のインタビュー記事を読まないで、見出しやツイッターの反応だけ見て読んだ気になったか、ものすごく国語力が低いことが分かる。見出しに、「緊急事態宣言の強権、首相自身も無自覚 決断は首かけて」とあったので、「首相はこの法律によって強大な権力を得ることになる」、と私が主張していると思い込んだのだろうが、そんなことは言っていない。まともな国語力のある人間が、読めば分かる。見出しにつられて脊髄反射したのだろう――あるいは、発言の機会がほしくて、あたりかまわず言いがかりをつけているのかもしれない。
 この文面を見る限り、この男の政治や法に関する認識は、出来の悪い高校生レベルである。「平和安全法制と異なり、今は人命が関わる緊急事態の上、…」とはどういうつもりか。「平和安全法制」は人の命と関係ないという前提なのか?「平和」とついているので勝手にそう連想しているのか?
 「民主党政権で成立した法律なので、立憲民主が賛成して当然」というのはどういう理屈だろう。国会議員や政党は、自分がかつて積極的に推進した法律に近い趣旨のものに対しては、状況が変わっても、あるいは法律の不備が見つかっても、無条件に賛成し続けなければならない、とでも言いたいのだろうか。どこからそんな前提を思いついたのか。
 あと、「焦点の医療用地の使用も知事の権限です」はどういうつもりだろう? 一度、首相が宣言を出したら、対象地域の知事は、政府の方針と関係なく、自分の判断で私権制限できるとでも思っているのだろうか? 一体何のために、首相の権限で宣言を出すのか? こんなのは、高校生でも理解できそうな話である。
 この男は民主党政権時代に、事業仕分けの評価者(仕分け人)などの公職を務めていたはずだが、旧民主党は本当に人を見る目がなかったのだな、と思わざるを得ない。この男は今でも、プロの証券マン、元仕分け人としていろんなメディアで偉そうに発言しているが、メディアも肩書だけで選んでいるのだろう。
 この男の前後にも、見出しにつられて、「安倍が首をかけたことにして倒閣運動するつもりか」、というツイートがあった。読まないで分かった気になり、更には、確信できるやつらは幸せだと思う。
 しばらくして、イスラム研究者を名乗る飯山陽が、以下のような決め付けツイートをした。

金沢大教授の仲正昌樹氏は「緊急事態宣言=強権=悪」と捉え、それは民主主義とは相容れない、権力に無批判に従うな、という自分の政治的主張を語るためにランダムに思想家の言を引用しているだけであり、研究者の名を語る政治活動家の典型という印象を受けた。asahi.com/articles/ASN43…

 「緊急事態宣言=強権=悪」と、私がどこで言ったのか? 恐らく読まないで、サヨクはそういうことを言うものと、決め付けているのだろう。この二つの「=」は、この女の雑な頭の中でしか成り立っていない。
 「ランダムに思想家の言を引用」と言っているが、それはこの女が、インタビューの中に出てくる思想家を一切知らず、私の説明を理解できなかったからだろう。言及されている思想家たちを少しでも知っている人なら、私のまとめ方に異論はあっても、どうして言及されているのかはすぐ理解できるだろう。
 専門外なので知らないということかもしれないが、私の言及した人たちは、みなかなりメジャーで、大学の一般教養レベルである――この女は一般教養の授業は軽視して、まともに受講していなかったかもしれない。少し調べれば、分かる。仮に私がもっと専門的で、wikipediaにも名前が出ていないような理論家の複雑な理論に言及したとしても、文系の研究者であれば、自分が分からないからといって、「ランダム」と決めつけたりしないだろう。この女は研究者としての資質がないと思う。
 あと、私について、「研究者の名を語る政治活動家の典型という印象を受けた」などと言うのは、私のことを一切知らないか、サヨク系の政治活動家について漠然としたイメージを持っているだけで、どういう問題にどういう発言をしているのか本当はよく知らないのだろう。断言しないで、「印象を受けた」という言い方に留めたのは、多少自覚があるからかもしれないが。
 とにかく、「政治活動家の典型」というフレーズに対しては、「それはお前だろ!」と言っておきたい。こいつは口だけで、外で活動することなどできそうにないが、ネットウヨクの活動家というのは、概してそういうものだろう。
 こいつはその界隈で人気があるようで、相当の数のリツイートがあった。その中に金沢大学の学生が二人いて、うち一人は法学類の私の授業に出たことのある学生である。リツイートした連中のほとんどがそうであるように、この連中も元の記事を読まないで、ただ面白いと思って便乗しただけだろう。
 リツイートした連中の何人かは、飯山に輪をかけたひどい中傷コメントをする奴がいたが、一番ひどかったのは、「参七😷感染症警戒中@yen_phoenix」という奴である。

男は40過ぎたら自分の顔に責任を持て、という諺がありますが、人間の生き様・思想は顔に出ます。 残念ながら仲正氏は人としての「徳」を微塵も感じられず、この顔を見てしまっては何を言われても信用できませんね。

 こいつに対しては、お前相当な顔面コンプレックスなんだな、可哀そうに! と言ってやるしかない。こういう連中は、自らの顔を表に出さず、ふざけたハンドルネームをつけて、他人を誹謗しまくっている自分の行状を恥ずかしいと思わないのだろうか? 自分には誇るものなどないから、こういう炎上女王のような人間のおこぼれにこそこそ与るような、みっともないまねができるのだろう。
 国を思うふりをしながら、下品な誹謗ツイートするしか能のないネットウヨクが寂しい連中だというのは最初から分かっている話だが、コロナ騒動のおかげで、余計に行き場がなくなって、普段以上に炎上ネタに飢えているのかもしれない。市川や飯山のような“論客”は、そういう連中を利用して目立ちたちたいのだろう。