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アニメ・アイコンの暴言は何故腹立たしいのか 仲正昌樹【第5回】 – 月刊極北

アニメ・アイコンの暴言は何故腹立たしいのか

仲正昌樹
[第5回]
2014年2月7日
[1]

 ツイッターでアニメ・キャラをアイコンにしている人たちがいる。自分の好きなアニメについて平和に語り合ってくれればいいのだが、中には、アニメ以上に、他人を中傷誹謗することに一所懸命になる迷惑な輩もいる。かなりたくさん見かける。アニメ・アイコンの人間に中傷誹謗されると、自分の顔写真や抽象的なマークのようなものをアイコンにしている人間に、同じことを言われたよりも腹が立つ。理由は二つある。
 先ず、アニメ・アイコンを使っているということは、自分自身の顔を隠している、ということである。実際、多くの場合、匿名である。多くの人に親しまれやすいアニメ・キャラを隠れ蓑にして、言いたい放題言うのは、卑怯であるように感じられる。卑怯な振る舞いをするつもりがないのなら、何等かの形で、自分が何者であるかを明らかにすべきだろう。
 アニメ・キャラに限らず、匿名の連中は、「身元を明らかにしないといけないということになったら、一般人は怖くて発言ができない」、と言いわけするが、そういう言いわけが成り立つのは、内部告発的な場合に限られる。特別な権力関係のない相手との間には、そういう言い訳の余地はない。中傷誹謗を含む“批判”は、他人の人格を否定すること、場合によっては、社会的“制裁”を加えるである。それでも発言しないわけにいかない、というのであれば、自分も非難されること、間違っていたら、自分が恥をかく覚悟が必要である。覚悟がないのに、一方的な匿名“批判”したがる人間は、屑である。
 そういうことを意識して、アニメ・アイコンにしたわけではないのだろうが、アニメ・アイコンで中傷罵倒されると、ふざけている感じがして余計に不快になる。このことは第二点と密接に関わってくる。
 アニメ・アイコンを使っている人間の内、実際にそのアニメ・キャラが好きで、アニ・オタとして活動している者は、アニメ・ネタについてアニ・オタ同士でコミュニケーションしていることが多い。そういう通常の会話は和気藹々としている。特に、癒し系の少女キャラの場合、アニメの内容からして、ふんわかした会話になりやすい。
 そういう、ふんわかした感じのアニメ・トークの合間に突然、そのアニメと全然関係のない評論家とか学者の悪口を言い始めると、そのギャップから悪意が際立つ。ツイッターのログには、それが如実に現れる。
 しかも、たちが悪いことに、アニメ・トークしているお仲間に同意を求めることがしばしばある。お仲間が無視すればいいのだが、そういう連中は、(お気に入りのアニメ作品の細部をどう評価するかということを除いて)同調傾向が強いから、誰に対するどういう批判かよく分からないまま、「ふ~ん、そういう学者がいるんだ!」「やだねー!」といった感じの相槌を打つ奴が出てくる。
 まるで、自分たちのアニメ・トークが単調になっているので、関係のないネタを持ってきて気分転換しようとしているように見える。ヒマ・ネタとしてdisられたと思うと余計に腹が立つ。
 加えて、そういう気分転換的なノリで関係のない相手に対する誹謗中傷されると、アニメ・オタ・サークルのお仲間は、平和主義のまともな人間で、disられている相手は、人間ではない存在として扱われているような感じがする。まるで、西洋人が日本人を、ハイソな人間が貧乏人を、ネタとしてコバカにしながら、お上品な会話を続けているのと同じような印象を受ける。「おまえら何様だ!」、という気がする。そういうことに気が回らないような、アニ・オタ・サークルの連中は、屑である。無論、アニ・オタに限らず、他人をネタとしてバカにしながら、上品な感じの会話を続けようとする屑サークルはたくさんあるが、アニメ・アイコンでそれをやられると、その無神経さが際立つ。
 なおいやなことに、アニ・オタ・サークルの中には、アニメ評論を足掛かりに評論家デビューしたがっている奴が結構混じっている。そういう奴は、有名大学の哲学とか社会学とかを学んでいて、自分のような人間はもっと世に知られてしかるべき、と思いこんでいる。それで時々、他のアニ・オタ仲間に向かって、薀蓄を披露したがる。「あの作品の世界観の○○のレイヤーとして、△△の理論があり、それが◇◇というキャラの■■的な振る舞いに反映されていることを抑えておくべき…」という感じで。
 そういう輩にとっては、学者・評論家・文化人を罵倒して、炎上を起こすのは、目立つための絶好の機会である。ひょっとすると、どこかの編集者の目にとまるかもしれない。昨年の八月に、私に対する誹謗中傷ツイッターが広がった際、漁夫の利を得ようとして、あまり私のことを知りもしないのに、しったかぶりをして“参戦”してくる、下品なアニメ・アイコン野郎が何人か混じっていた。
 本当にうんざりする。