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【10/27極北ラジオ・ダイジェスト】日本のパンク/ニューウェーヴの幕開け(後編)竹村洋介

【10/27極北ラジオ・ダイジェスト】日本のパンク/ニューウェーヴの幕開け(後編)


竹村洋介
2017年10月29日

近畿大講師の竹村洋介氏

近畿大講師の竹村洋介氏

 今晩もやってきました。ミドルエイジのためのクオリティラジオ、FarNorthNetwork。竹村洋介がお送りする「夜をぶっ飛ばせ」は、日本で初めて出版社が運営する深夜ラジオです。明月堂書店の提供でお送りします。
さて、1曲目はいつもの通り、いしうらまさゆきさんの曲。今月から「哲学するタネ」という極北ラジオのパーソナリティーを務めているいしうらまさゆき [1]さんの「ユニヴァーサル・ソルジャー」 [2]でした。原曲はアメリカン・ネイティヴ出身であるBuffy Sainte-Marieさんです。
 ただ今ニュースが入ってきました。ヨーロッパでは、カタルーニャ州がスペイン政府に対して一方的に独立を宣言しました。日本の総選挙は「とほほ」でしたが。
 皆さんはこの1月間、いかがお過ごしでしたでしょうか? 僕の方は、新しい本が出ることになってゲラの2校、3校が出てきて、なんだかあわただしい毎日でした。入校してしまえば、次の版下が出てくるまではただ待っているだけで時間は空いているのですが。
 それと歯の治療をすることになり、いま仮の入れ歯を入れています。もしこれで聴きづらいところがあれば、もともと滑舌がいいわけでもないのですが、お許しください。来月までには(もっとかかるかもしれませんが)歯の治療をすましておきたいです。来月は11月24日金曜です。なかなか歯科受診の予約が取れないので、治療は終わっていないかもしれません。まだ仮入れ歯にして3日目なので、どうにも口の中が落ちつかなくてしょうがないのですが。歯の闘病生活ついては今後追って報告いたします。眼の方はもう治らないので報告はしません。
 それとは別の話ですが今月は訃報が相次ぎました。どちらもリザードのモモヨさんのツイート [3]で知ったのですが、相次いで二人のシンガーがなくなられました。モモヨさんのコメントは「さみしくなるよね」でしたが、まさにそうですね。まずは後の方の訃報から。
 まだ25日のことですが、「カレーライス」という曲やステージに胡坐をかいてアコースティック・ギターを弾く。僕が拾得で見たときはそんなおとなしいものではなくて、ギターを抱えてライヴハウス中を駆け回るというものでしたが、猫好き、カレー好きが高じて渋谷カレーショップを開店して「ピラミッド・カレー」という不思議なものを提供していたとか。話し出すときりがないのですが、あれやこれやで有名な遠藤賢司さんがお亡くなりになられました。死因は胃癌だったそうです。享年70歳。お若いとは言えないかもしれませんが、近年までスターリンの遠藤ミチロウさんとEND&ENDで元気なところを見せていらしたので残念です。デビューは大変古くあの中津川のフォークジャンボリーにも第1回から、つまり1969年から出演されています。自称「最長寿のロックンローラー」ということでしたが、お亡くなりになられました。お聞きいただくのは「カレーライス」1972年のヴァージョン [4]です。
 もう一つの訃報は、10月16日。報が流れたのが翌17日。今週の月曜日10月23日ですが、お葬式に行ってきました。誰の葬式かというとThe FOOLSのVo.にして高円寺の生き証人(お亡くなりになられましたが)の伊藤耕さんです。先月も「TVイージー」をかけしましたが、1970年後半以降、SEX、SYZE、The FOOLSと日本のパンクバンドシーンをリードしてきたVo.です。10月16日にお亡くなりになられました。エピタフというか位牌ですね、そこには享年63歳とありました。こちらもリザードのモモヨさんからのメールで知りました。モモヨさんとは、最近ご無沙汰していましたのでなんだろうと思ってメールを開封するとこの訃報だったのです。エンバーミングというのですか、それが施されていたせいか、きれいな亡骸でした。
 ここでお便りを一つ。

伊藤耕さんが亡くなられたそうですが、いつどこで、何が原因で亡くなられたのですか。(東京都杉並区高円寺北、匿名希望)

 亡くなられたのは今月16日北海道・月形刑務所でした。月形というのは石狩川沿いの町で札幌から上流に入ったところにあります。死因はいまのところ不明です。追って発表があるとのことですが、今のところまだ発表はないようです。獄中死なので、検死はなされたそうです。裁判の方は1審は無罪だったのですが、2審3審と最高裁までいき、逆転判決で有罪確定となって服役していたところでした。バンドのFacebook [5]オフィシャルページ [6]によれば、伊藤耕さんは40日後に出所予定でした。まずは入所前に裁判の間を縫って録音されていたThe FOOLSの25年ぶりのアルバム『レベル・ミュージック』 [7]を発売したばかりでした。

 お通夜は遠藤ミチローさんや株式会社ロフトからの献花などもありお通夜だけで数百人にも上る盛大なものでした。僕の友人では『The FOOLS外伝』を執筆中の志田歩さん、あるいはやはりミュージシャンの朴保さんなども列席していました。
 僕が伊藤耕さんを初めて見たのは「Drive to 80」というロフトの企画イヴェントでした。それ以前にコンピレーションアルバム『Tokyo New Wave 79』 [8]が出ていて、そこにはSEXの楽曲も2曲入っていたので、音源だけは知っていたのですが。すでにDrive to 80の時点ではSEXは解散し、SYZEになっていたのですが、Drive to 80に出演するこの日1日かぎりでSEXが再結成された演奏でした。『Tokyo New Wave 79』には、ほかにも8 1/2や自殺、Painなどの楽曲も収録されておりレアアイテムです。この頃の伊藤耕さんの写真は、一連の「Drive to 」のプロデューサーでもある地引雄一さんの手になるものが多いのですが、40年も前のことなので当たり前のことですが、若々しくて健康的で驚いてしまうほどです。
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 メンバーは、ギターの川田良さんとともにすることが、多かったのですが、そのほかにもブルースビンボーズなどでも活躍されていました。その相棒ともいえる川田良さんも2014年1月29日にエコノミー症候群とその後遺症で亡くなっています。The FOOLSの伊藤耕さんに話を戻すと、メンバーの入れ替わりは多かったのですが、「Drive to 80」以降も日比谷野外音楽堂で行われた伝説的音楽イヴェント「天国注射の昼」に町田町蔵などともに出演したり、「Drive to 2010」でも健在ぶりを発揮しました。どれも日本のロック史に残る一大イヴェントでした。
SYZE時代からThe FOOLSの初期は、ストレートなパンクが多く、N.Y.パンクのゴッドファーザーであるイギー・ポップ&ストゥジーズのカヴァーなどが多かったのですが、後期(といいでしょう)はファンキーなのりの曲をやるようになっていました。(ここで、元村八分の山口冨士夫さんの「おさらば」 [9]をThe FOOLSがカヴァーするという珍品を)
 先年の山口冨士夫さんに次いで伊藤耕さんも、この世に「おさらば」したのですね。僕が最初アクセスしたときはまだ8回でした。原曲は山口冨士夫さんが村八分を解散し、京都を去るという「おさらば」なんですが。今となっては晩年になるわけですが、歯を傷めて抜けてしまい、年を感じさせることもありました。しかし、胸板などは日本人離れして相変わらずがっちりしていて「反逆の天使」と言わせる相貌でした。遠藤ミチロウさんの葬儀の献花もありましたが、あの胸板の厚さは遠藤ミチロウさんと相通じるものがありましたね。
 SYZE時代にはあの名曲「No Fun」。なんかも演奏しています。(知る人ぞ知る名曲No Funをどうぞ)
 あとでまた話してみようと思いますが、原曲はイギー・ポップ&ストゥジーズなんですよね。SYZE以外にもいろいろな人がカヴァーしています。セックス・ピストルズVer.でご存知の方も多いのではないでしょうか?
 この2人のデビューは、遠藤ミチロウさんの方は大学を出るのが遅かったので、「Drive to 80」には間に合っていませんが、相通じるところも多かったですね。「Drive to 2010」ではともに健在ぶりを発揮しましたし、ドアーズ、イギー・ポップ&ストゥジーズなど影響を受けたミュージシャンという点も共通しています。
 ここでは、オリジナルになるドアーズの「The End」。いまミチロウが西村雄一、関根真理、ナポレオン山岸さんらと組んでいるバンド名も「The End」です。ここではドアーズの曲「The End」 [10](バンド名はもちろんこの曲のタイトルからとったものですが)こちらをどうぞ。

 遠藤ミチロウさんのHP [11]では、

「これは、全てのロックファンに対する最後の挑戦状だ!! — 遠藤ミチロウ  終わりの始まりは、ドアーズだった」

 と書かれています。
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 当初は臓物投げで(じゃがたらのアケミちゃんもやっていましたが)、スターリンという名前ともども、きわもの臭かったのですが、膠原病にかかりながらも、どんな小さな箱にでも出ていくという精力的な活動で、いまは名を馳せていると思います。若いポストパンクのミュージシャンとも遠藤ミチロウ&久土‘n茶谷というように積極的に交流を持っています。ミチロウさんのことは昔から知ってはいたのですが(Drive to 80には間に合っていませんが)、スターリン時代からソロでやるとき正統派フォークという感じでした。ただ参ったのは「Drive to 2010」の時です。お祭りということで、内蔵投げはもちろん、死んだ豚の頭に接吻くらいまでならまだよかったのですが(全然よくないですけど)、その死んだ豚の頭を一番前で見ていたぼく目がけて投げつけてきたのでした。ずるっとした粘っこいものが右腕にねばりつき頭はそのまま僕の足元に。あの気持ちの悪い感覚は1週間ほど抜けませんでした。それではそのスターリンの「豚に真珠」 [12]をどうぞ。
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 ただ余計なことかもしれないけれど、ミチロウさんあまりいい人になりきらないでほしいのですよね。ジャックスが好きでドアーズに影響を受け、吉本隆明を読みふける遠藤ミチロウ。あの反逆児、放送禁止、発売禁止男だった忌野清志郎さんですら、死んだときには「国民的歌手」に祭り上げられてしまいましたから。悪いことをしているわけではないけれど、というよりピュアで悪い人でないので、福島第一原発事故以降の活動、生まれ育ちが福島なのだからしょうがないのでしょうが、清志郎のような変な持ち上げられ方をして終わりを遂げたりされないでほしいというのが僕の希望です。伊藤耕さんじゃありませんが、いつどこでどういうふうに亡くなるかは本人の望みどおりにはいきませんから。
 ドアーズというと日本ではあまり知名度が高くないかもしれませんが、作家の村上龍も影響を受けた言うことを公言していますが、カリフォルニアはロサンゼルスのバンドで1960年代後半にEP盤のヒット曲を連発していたバンドなんですね。そしてステージングもワイルドで、ステージ上でリーダー・ボーカルのジム・モリソンがマスターベーションをやって逮捕されたというエピソードもありました。日本では頭脳警察のパンタがまねをしようとしたのですが勃起しなかったとか。
 ポストバンクでいえばオワリカラというバンドがあって、彼ら自身、カヴァーではないですが、『ドアたち』というタイトルのCDを出しているほどです。リーダーのタカハシヒョウリ君には僕の講義でよくゲスト講師を務めてもらっています。(→ドアたち [13]
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 その他にもこのオワリカラにはズバリその名も『イギー・ポップと讃美歌』 [14]というCDもあるほどでポストパンクがパンク、あるいはプレ・パンクの正当な継承者であることがわかります。
では最後にパンク・ロックの草分けにして総大将、イギー・ポップ&ストゥジーズの「1969」で終わることにしましょう。この年はイーグルスが「ホテルカリフォルニア」の歌詞でも取り上げるように時代を画する年だったようです。
(それではイギー・ポップ&ストゥージーズの「1969」 [15]を)
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水谷さんからの手紙のコーナー
 今月はこのコーナー、全くお便りがありません。目撃情報すら来ていません。ところがです。初代「裸のラリーズ」は1967年デビューですから50周年を迎えます。初代ベースの若林盛亮さんが朝鮮民主主義共和国の日本人村で電話取材に出てきたようです。電話インタヴューに成功したのは神庭亮介さん。途中、切れ切れになりながらも2時間にわたるロング・インタヴューだったそうです。関心のある方はBuzzFeedNEWS [16]をどうぞ。
 ところでこのBuzzFeedNewsの5枚目の写真、ラリーズのライヴ予告のポスターなんですが、大きく「裸のラリーズ」とかいてある下の方に「with FRICTION」と書いてあるのですが、これはあのジャパニーズパンク、東京ロッカーズの雄、FRICTIONのことなんでしょうか? 誰かご存知の方がいらっしゃいましたらご一報ください。
会場は青山ベルコモンズ9F、日時は11月1日水曜日午後4時となっていまずが、何年なんでしょうか? 東京の電話番号がまだ7ケタで408-8086となっているので1990年以前ということになります。もちろん、この電話番号はすでに使われていないようです。
 もう一度、お願いします。お便りをください。1970年ころまでは、僕も行ったことのある京都の、高野悦子の『二十歳の原点』で有名な「しあんくれーる」という喫茶店に出入りしていたことはこの神庭亮介さんのインタビューでも明らかになっています。
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 もうこの「しあんくれーる」もすでに閉店していますが、どうも朝鮮民主主義人民共和国に密航したということではないようですね。高円寺に潜行しているのでしょうか? このラジオは世界中に配信されていますので、どこからでもはやくお便りください。お待ちしております。(裸のラリーズ「The Last One」 [17]